上野日記

自分が主人公の小さな物語

夏川草介の『臨床の砦』を読んだ

夏川草介の『臨床の砦』を読んだ。2021年4月に小学館より刊行された長編小説だ。

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以下は小学館のページより:

「この戦、負けますね」
 敷島寛治は、コロナ診療の最前線に立つ信濃山病院の内科医である。一年近くコロナ診療を続けてきたが、令和二年年末から目に見えて感染者が増え始め、酸素化の悪い患者が数多く出てきている。医療従事者たちは、この一年、誰もまともに休みを取れていない。世間では「医療崩壊」寸前と言われているが、現場の印象は「医療壊滅」だ。ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来すなか、病院は、異様な雰囲気に包まれていた。
「対応が困難だから、患者を断りますか? 病棟が満床だから拒絶すべきですか? 残念ながら、現時点では当院以外に、コロナ患者を受け入れる準備が整っている病院はありません。筑摩野中央を除けば、この一帯にあるすべての病院が、コロナ患者と聞いただけで当院に送り込んでいるのが現実です。ここは、いくらでも代わりの病院がある大都市とは違うのです。当院が拒否すれば、患者に行き場はありません。それでも我々は拒否すべきだと思うのですか?」――本文より。

信州の小さな総合病院が舞台で、新型コロナウイルスと戦う医療現場の奮闘が描かれている。時期としては2021年1月の1ヶ月間で、第3波の最中だ。ベッドは満床で更に増やそうとしているが追いつかない、医師も看護師も疲弊している。そんなとき養護施設でクラスターが発生したり、院内感染が発生したりする。

物語としては、実際の医療現場や報道をヒントに描かれているのだろうが、なかなか生々しいものが読み取れたような感じる。なかなか面白かった。




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