大江健三郎の『奇妙な仕事・死者の奢り』を読んだ。以下の短編を収録した本で1985年に「日本の文学86」としてほるぷ出版より発行された。
- 奇妙な仕事 (1957年5月『東京大学新聞』) 東大の五月祭賞受賞作
- 死者の奢り (1957年7月『文学界』) 学生作家としてのデビュー作
- 飼育 (1958年1月『文学界』) 第39回芥川賞受賞作
- セヴンティーン (1961年『文学界』)
- アトミック・エイジの守護神 (1972年『空の怪物アグイー』)
東京大学在学中(1958年)に当時最年少の23歳で芥川賞を受賞した「飼育」を図書館で探していたら、この本が見つかった。
奇妙な仕事:病院の実験用の犬150匹を殺処分するアルバイト。犬の餌を作る殺処分者に対し餌をやって手なずけるのは卑劣で恥知らずだというと、「今日はせいぜい五十匹しか殺さないんだ、と犬殺しが怒りを押さえた声でいった。後の百匹を飢えさせておくのか。そんな残酷なことはできないよ」と反論する。その矛盾を考えさせられる。
死者の奢り:病院の解剖用の死体を片付けるアルバイト。アルコールの水槽に沈んだ死体に番号札を付け新しい水槽に移す。でもそれは教授たちの要望とは違っており、徒労に終わる。一緒にアルバイトに来ていた女子学生は妊娠しており、このアルバイト代を堕胎するための手術代にする予定だ。ただ、この仕事をして気が変わる。
セヴンティーン:17歳の高校生。いろいろなことで悩む。性のことや大学受験、世の中や政治のこと。そして右翼の活動をすることに……。三島由紀夫が高校生の頃はこんな感じだったのかなぁ、とふと思った。
アトミック・エイジの守護神:広島の原爆孤児を10人引き取り育てる中年男。でもその孤児には保険金が掛けられている。でも……。意外な結末にあっと驚いた。
大江健三郎がノーベル賞を受賞したのは1994年のことだ。それまで名前も知らなかったし、もちろん氏の本も読んだことはなかった。きっと堅苦しいのかと思ったがそうでもなかった。ノーベル賞対象作の『個人的な体験』『万延元年のフットボール』『M/Tと森のフシギの物語』『懐かしい年への手紙』はいつかは読まないといけないな。