上野日記

自分が主人公の小さな物語

ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』を読んだ

小尾芙佐(1932-)訳、ダニエル・キイス(Daniel Keyes)の『アルジャーノンに花束を』(Flowers for Algernon)を読んだ。1959年に中編小説として発表され、1966年に長編小説として改作されたSF小説だ。中編小説でヒューゴー賞、長編小説でネビュラ賞を受賞しているらしい。

日本では、1961年に中編小説(稲葉明雄訳)が、1978年に長編小説が出版された。私が読んだのは1989年の改定版、発行半年で9刷になっていた。
32歳の知的障害者チャーリーは、脳外科手術によって天才的な知能を持つようになるが、しばらくするとその知能は次第に失われていき元のチャーリーに戻ってしまう、というストーリーだ。天才になり知識は豊富になるが、人としての感情、感受性、気配りなどは子供のままで知識とのバランスが取れず孤立していく。高い知能を得たチャーリーは、友情・愛情・性・正義などの人間関係に悩まされることになる。そして、自分を捨てた母親、父親そして妹の過去の事実を理解することになる。

「知能だけでは何の意味もないことをぼくは学んだ。あんたがたの大学では、知能や教育や知識が、偉大な偶像になっている。でもぼくは知ったんです、あんたがたが見逃しているものを。人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打もないってことです」と知能をなくしかけたチャーリーは悟る。そして、最後にチャーリーは人に"笑われて"友達を作ると……。

なんか切ない物語だった。知能や知識を得て偉くなることが幸せなのか、それを失うことが不幸せなのか……。人の幸せってなんだろうと考えさせられる。

題名の「アルジャーノン」とは手術を受けて高い知能を持ったネズミの名前だが、「花束」ってなんだろうと思っていた。それが、最後の一行でようやくわかった。「あっ」とつぶやいていた。泣けた……。

この小説は、映画化(アメリカ1968年、カナダ2000年)、ラジオドラマ化、テレビドラマ化(韓国でリメイクも)、そして舞台化もされている。2002年にユースケ・サンタマリア主演でのテレビドラマを観たのを覚えている。なかなか良かったのだが、「海外に著作権があったため、ドラマ化をするにあたり交渉に3年かかった。その労苦にもかかわらず、視聴率は振るわなかった」らしい(平均視聴率11.1%)。毎週楽しみにしていた私にとっては、視聴率が低かったのはちょっと残念だ。主人公ユースケ・サンタマリアの演技や母親役のいしだあゆみの切ない表情、吉沢悠、オセロの中島知子榎本加奈子の映像は何となく思い出せるのだが、キニアン先生役の菅野美穂がどうしても思い出せない。再放送ないかなぁ。

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