石黒浩・池谷瑠絵共著の『ロボットは涙を流すか ― 映画と現実の狭間 ―』を読んだ。2010年にPHPサイエンス・ワールド新書から刊行された。アンドロイド研究の第一人者が「最新のロボット技術を参照しつつ、そして映画と現実の狭間をさまよいながら、そのような中から『人間とは何か』『ロボットはどこまで人間に近づけるか』を議論する」本である。
図書館で本書を見つけ、面白い題名だなと思いパラパラとページをめくったら石黒氏が開発したアンドロイド「ジェミノイドHI-1」の写真が載っていた。そういえばテレビで観たことがあったなと思い、とりあえず読んでみるかと借りてきた。なかなか面白かった。
SF映画の『スター・トレック』『サロゲート』『マトリックス』『ターミネーター』『アイ,ロボット』『A.I.』『スター・ウォーズ』などに出てくるロボットと比較しながら現在のロボット技術を考察していく内容だ。私にとってはまだまだ遠い未来の話のような気がするが、研究者にとってはそうでもないのかもしれない。「手」や「腕」のような複雑な部位を機械で作ることはかなり難しいらしい。それにまして「心」となるともっと難しくなるだろう。そこには「人間らしさ」の追及が必要になるらしい。
「結局、人間らしく振る舞うということは、人間をそのままなぞるのではなく、コミュニケーションに役立つエッセンスを見つけるところがポイントになるのだということを実感したのであった」と記されている。でも、それがわかったからといってどうやって実現するのか、どのようにプログラミングするのか……。長年ソフトウェア開発に携わってきた私にとって、興味のわくところである。
また、以下のような文章があった。工学的な知識だけではなく脳科学や認知科学との連携がなければロボットを人間に近づけることはできないという件の文章だ。
人間の脳と体は、私たちがイメージするほど綿密なつながりで動作しているわけではないのだ。たとえば私たちは歩く時、自分のすべての感覚器をチェックして歩いているわけではなく、歩いているということを頭でわかっておいて、あとは予測で歩いているのと同じである。
上記文章を読んで、脳梗塞を患ったとき歩けなくなったのを思い出した。「小脳梗塞体験記」にも書いたが、初め両足かと思っていたら左足に力が入らなくなったため歩けないのだと自分自身が認識するのに少し時間がかかった。それほど脳が混乱していたのかもしれない。それからリハビリで歩行訓練をする時、今まで自分がどのように歩いていたのかを思い出せなかった。それまで何も考えずに歩いていたし、普通に歩けるのが当然だったからだ。つまり脳で考えた通りに足が動かないし、何も考えずとも動いていた足がその通りに動かないのだ。引用文章にあるように、脳で予測したように足が動かないので「予測で歩く」ことができなかったようだ。
人間のようなアンドロイドはいろんな分野に役立つだろう。そして、鉄腕アトムのようなロボットが実現するのはいつになるだろうか。