上野日記

自分が主人公の小さな物語

伊坂幸太郎の『死神の精度』を読んだ

伊坂幸太郎の『死神の精度』を読んだ。2005年に文藝春秋より刊行され、2004年の第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞、2006年に第134回直木三十五賞候補、同年本屋大賞第3位になった連作短編集だ。

「死神の精度」、「死神と藤田」、「吹雪に死神」、「恋愛で死神」、「旅路を死神」、「死神対老女」の6編が収録されている。ラジオドラマ化、映画化(金城武小西真奈美)、舞台化(香川照之ラサール石井)されている。

主人公は調査担当(調査部員)の死神だ。対象者を1週間観察し、対象者が死ぬべきかどうかを判断する。「可」とすれば8日目に死が執行され、「見送り」だと天寿を全うする。

死神の精度:顧客苦情処理担当の女性がしつこいクレーマーに悩み生きる希望を失う。でも、クレーマーの本当の目的は他にあった。死神のいい加減さ(精度)には苦笑。

死神と藤田:「弱気を助け強きをくじく」昔ながらの任侠やくざの藤田が、兄貴分を殺され仇討をしようとする。

吹雪に死神:吹雪の中で孤立した洋館を改造した宿泊施設で人が次々に死んでいく。殺人かそれとも死神の仕業か。「死神」が関係しているので、「そんなのアリ?」という結末に驚いた。

恋愛で死神:勤め先のブティックに来た女性に一目ぼれした男性、女性が向かいのマンションに住んでいることが分かり友達になりたいと考えている。女性はしつこいセールスの電話そしてストーカーに悩む。

旅路を死神:殺人を犯し逃亡する青年。ある目的を達成するために十和田湖奥入瀬に死神の車で向かう。意外な結末にほろり。

死神対老女:眺めのいい高台で美容院を開く70代の女性。「人間じゃないでしょ」と死神に気が付く。そして「一生のお願い」と顧客集めを依頼する。「死神の精度」と「恋愛で死神」に関連していてちょっと面白かった。ラストもなかなかよかった。


いずれの短編もヒューマンドラマを観ているような感じがした。登場人物の人間模様、死神を通した運命のいたずらが実に面白く描かれている。

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