上野日記

自分が主人公の小さな物語

重松清の『その日のまえに』を読んだ

重松清の『その日のまえに』を読んだ。2005年に文藝春秋より刊行された短編集(一部連作)で、2007年にラジオドラマ化、2008年に映画化されたらしい。「ひこうき雲」「朝日のあたる家」「潮騒」「ヒア・カムズ・ザ・サン」「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」の7篇が収録されている。

ひこうき雲: 小学6年の頃クラスでみんなから嫌われていた女子が病気で入院した。寄せ書きを持ってクラスの数人で見舞いに行く。大人に彼が家族と病院の近くまで出かけたときにふと思い出す。その少女は中1の秋に亡くなる。人の死を意識することになる。

朝日のあたる家: 早くに夫を亡くし中学の娘と暮らす高校教師。昔の教え子たちと偶然出会う。同じマンションに住む教え子の女性は万引きの常習犯、教え子の男性はコンビニでそれを助けていた。

潮騒: 末期癌を告知された日、小学生の頃に過ごした町を訪れた。そこで幼なじみと出会い、末期癌であることを話す。そして子供の頃海でおぼれて亡くなった同級生のことを思い出す。

ヒア・カムズ・ザ・サン: 癌を告知された母親は高校の息子にそれを伝えることができない。息子が気付くようにそれとなく伏線を仕掛ける。

その日のまえに: 末期癌を患った妻。新婚当時に住んでいた町を夫婦で訪れる。「その日」を迎える前に、色々とやるべきことをやる。中3と小6の息子たちにはまだ話していない。最後まで話さないでほしいと妻は懇願する。

その日: とうとう「その日」が近づいた。やるべきことはやった…のか。妻の意識はもうない。子供たちに話をする。

その日のあとで: 「その日」から3か月が過ぎた。妻と仲のよかった看護師長が妻の手紙を預かっていると連絡がある。その手紙には…。

「その日」、死にゆく者と残る者は何を考えるべきなのか。何ができるのだろうか。何ができないのだろうか。「その日」が分かっている人は幸せなのか…。

「泣ける小説」と謳っていたので期待したのだがそれほどでもなかった。ただ重松さんらしさは十分に伝わってきた。良かった。

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