上野日記

自分が主人公の小さな物語

天童荒太の『悼む人』を読んだ

天童荒太の『悼む人』を読んだ。2008年に文藝春秋より刊行され、第140回直木賞を受賞した長編小説だ。2012年に舞台化、2015年2月は映画が公開された。高良健吾石田ゆり子が映画の番宣をしていたのをテレビで観たのが読むきっかけだ。ちなみに高良健吾父親が高校の先輩だというのをFacebook(高校同窓会グループ)で知って驚いた。

死んだ人の現場を訪れその人を悼むため全国を放浪する青年が主人公。その主人公を心配する両親・妹・従弟、たまたま知り合った雑誌記者、夫殺しの刑を終えて出所した女性を絡めた人生観・死生観などが織り込まれている。
「死者の冥福を祈るのではなく、死を悼んでいるだけだ。その人を覚えておきたい」と彼は言う。子供の頃に勝っていた小鳥の死や祖母の死などと積み重なり、旅に出るきっかけになったのが親友の一周忌を仕事の忙しさから忘れてしまったことだった。死者を訪ね歩く青年は人々から疎まれ警察を呼ばれることもあるが、共感する人も中に入る。そんな彼と出会って人間不信だった雑誌記者や自暴自棄になっていた夫を殺した女性の考えが次第に変わっていく。そして主人公を一番理解していた母親は末期癌に侵されひたすら息子の帰りを待つ。

主人公の「死」に対する考えや行動は少し理解しがたいところはある。ましてや全く見ず知らずの人が亡くなったからと言って、そこまで行動できるものではない。小説の中の話なので設定に文句を言っても仕方ないが…。ただ、「死んだ人を覚えておく」、「忘れない」というのは人として大切なものかもしれない。考えさせられる作品だった。

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