森絵都の『風に舞いあがるビニールシート』を読んだ。2006年に文藝春秋より刊行され、第135回直木賞を受賞した短編小説だ。他に「器を探して」「犬の散歩」「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」が収録されている。
2009年にNHKで「風に舞いあがるビニールシート」を原作としたドラマが吹石一恵主演で制作・放送されている。
器を探して:天才パティシエに惹かれて一緒に仕事をすることになったが秘書としての雑用で、恋人に仕事を取るか俺を取るか迫られる。
犬の散歩:ボランティアで捨て犬の世話をする主婦。餌代のために夫の給料を使うのには気が引けるとホステスをする。「なにを基準に生きればいいのかわからなくて、いつも誰かの物差しを借りてばかりいた」が犬の世話で変わってきた。
守護神:大学の二部に通う男子学生がレポートの代筆をしてくれる女性を探し、自分の心の奥深くの悩みを吐露する。
鐘の音:仏像の修復の親方と弟子の過去の出来事を25年ぶりに振り返る。修復した仏像の意外な謎がわかる。
ジェネレーションX:クレーム処理をする出版社の中年男性と玩具メーカの若手社員。謝りに行く車の中で私用電話をする若手にジェネレーションギャップを感じる中年男性。意外な結末に思わずにやりとしてしまった。
風に舞いあがるビニールシート:帰国子女の女性が日本企業の慣習に肌が合わず、国連難民高等弁無事務所(UNHCR)に転職する。UNHCRは世界中の紛争や迫害で難民となった人々を助ける国連の機関だ。そこで出会ったアメリカ男性と結婚するも夫は海外の電話も通じないところに長期赴任する。子供が欲しい女性に対し夫は「難民キャンプでは、人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートのように簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていく。暴力的な風が吹いたとき、真っ先に飛ばされるのは弱い立場の人たちだ。老人や女性や子供、それに生まれて間もない赤ん坊たちだ。誰かが手をさしのべて助けなければならない。―。だから僕は思うんだよ、自分の子供を育てる時間や労力があるのなら、すでに生まれた彼らのためにそれをささげるべきだ」と語る。そして価値観の違いで7年の結婚生活を終わらせる。そして元夫は暴漢に襲われた少女を助けようとして殺される。最後の姿を知った女性は上司や同僚らに励まされある決心をする。
巻末の参考資料や謝辞を読むとかなり調査をして書きあげているのがわかる。かなり力を入れて書いたのだろう。また、難民救済、草野球、ボランティアと色々だが、必死に生きようと、必死に頑張ろうとする思いは伝わってきたような気がする。とても面白かった。