上野日記

自分が主人公の小さな物語

村上春樹の『アフターダーク』を読んだ

村上春樹の『アフターダーク』を読んだ。2004年に講談社より刊行された書き下ろしの長編小説だ。「2005年にロシア語訳、2006年にドイツ語訳、2007年には英訳版が出版された」らしい。

ある日の夜中(23時56分)から明けて朝方(6時52分過ぎ)までの一晩のいろんな出来事が語られている。デニーズで分厚い本を読みふける19歳の少女<マリ>、そこに食事にきた少女の姉の高校時代の同級生(青年)<高橋>、ラブホテルでの事件、中国人売春婦とその一味、2か月前から眠り続ける少女の姉、ラブホテルで事件を起こした男性。それらを観察する<私たち>。
今までの小説では、<僕>が主人公でその目線から語られる小説が多かったが、今回は実体のない謎の<私たち>の目線から進行していく。不思議な世界だ。相変わらず謎は残ったが……。
心を閉ざしていた<マリ>が<高橋>やラブホテルの経営者・従業員と話すうちに次第に打ち解けてくる。姉と比較されることから来るコンプレックスから自分を失いかけていたようだ。そして笑顔を取り戻す。夜から朝が来るように、人は少しずつ変わっていくのかもしれないと思った。

題名のアフターダークは、ジャズの『ファイブスポット・アフターダーク』に由来しているようだ。YouTubeで検索したら、聴いたことがあるようなないような……。

先日読んだ『国境の南、太陽の西』には出てこなかったと思うが、この小説にはサラダを食べるシーンが出て来たのにはちょっと笑ってしまった。

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