上野日記

自分が主人公の小さな物語

荻原浩の『海の見える理髪店』を読んだ

荻原浩の『海の見える理髪店』を読んだ。2016年3月に集英社より刊行され、第155回直木三十五賞を受賞した短編集だ。「海の見える理髪店」「いつか来た道」「遠くから来た手紙」「空は今日もスカイ」「時のない時計」「成人式」の6編が収録されている。

以下の概要はAmazonより:

主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる「海の見える理髪店」。意識を押しつける画家の母から必死に逃れて16年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く「いつか来た道」。仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発。子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める「遠くから来た手紙」。親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す「空は今日もスカイ」。父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる「時のない時計」。数年前に中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する「成人式」。伝えられなかった言葉。忘れられない後悔。もしも「あの時」に戻ることができたら……。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の悲しみとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。

海の見える理髪店に初めて予約を入れて髪を切ってもらう。饒舌な初老の店主の身の上話は退屈に違いないと思っていたら、思わぬ結末に胸が熱くなる。

16年も絶縁状態だった母と娘。弟から今会わないとと後悔するよと促され実家を訪れると、そこに待っていた母は…。

父親の形見分けだと母からもらった舶来の腕時計、修理してもらった町の時計屋で過去の出来事を思い出す。

あの時なぜとか、もう一度戻れるならとか、使い古された言葉が頭の中を駆け巡る。なんか、考えさせられる小説だった。




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