上野日記

自分が主人公の小さな物語

吉田修一の『元職員』を読んだ

吉田修一の『元職員』を読んだ。2008年に講談社から刊行された吉田修一7年ぶりの書き下ろし小説だ。講談社の創業100周年(2009年)を記念した企画「書き下ろし100冊」のうちの一冊らしい。

主人公は公社職員でたまった有給をとってタイ・バンコクに旅行に来た。一緒に行くはずだった妻は機嫌が悪くドタキャンで一人旅となった。タイに着いたその日に現地で働く日本人青年と仲良くなり、美しい娼婦を紹介される。娼婦との楽しい日々をバンコクで過ごすうちに次第に主人公が持つ公金横領が明らかになる。そして……。
信じたいことだけが真実、信じたくないのは嘘、見たいものだけを見て、見たくないものからは目を背ける。見て見ぬふりをしているからうまくいくこともあるのか。些細なことから、何気ないことから、罪が始まり次第に麻痺していく。人間関係においてもそうなのだろうか。……。

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