上野日記

自分が主人公の小さな物語

重松清の『十字架』を読んだ

重松清の『十字架』を読んだ。2009年に講談社より刊行され、2010年には吉川英治文学賞を受賞した長編小説だ。

あらすじは講談社のページより。

あいつの人生が終わり、僕たちの長い旅が始まった。
中学2年でいじめを苦に自殺したあいつ。遺書には4人の同級生の名前が書かれていた――。

背負った重荷をどう受け止めて生きればよいのだろう?悩み、迷い、傷つきながら手探りで進んだ20年間の物語。

さらに大きく進化した重松清による書き下ろし感動傑作!

なぜ、あいつは僕に、<親友><ありがとう>と書きのこしたのだろうか。あいつを見殺しにした<親友>の僕と、遺書で<ごめんなさい>と謝られた彼女。進学して世界が広がり、新しい思い出が増えても、あいつの影が消え去ることはなかった。大学を卒業して、就職をして、結婚をした。息子が生まれて、父親になった。「どんなふうに、きみはおとなになったんだ。教えてくれ」あいつの自殺から20年、僕たちをけっしてゆるさず、ずっと遠いままだったあのひととの約束を、僕はもうすぐ果たす――。

講談社創業100周年記念出版
第44回吉川英治文学賞受賞

自殺した少年の遺書には以下のように書かれていた。

真田裕様。親友になってくれてありがとう。ユウちゃんの幸せな人生を祈っています。
 三島武大。根本晋哉。永遠にゆるさない。呪ってやる。地獄に落ちろ
 中川小百合さん。迷惑をおかけして、ごめんなさい。誕生日おめでとうございます。幸せになってください。

幼なじみだけど親友だとは思っていかなった。少女の誕生日は少年の命日になってしまった。「親友なのになぜ助けなかったのか」と自殺した少年の父親に叱責される少年、クラスのいじめをただ黙ってみていただけだった。プレゼントを渡したいと電話されてむげに断った少女。自殺した少年は、プレゼントをコンビニから宅配便で送り、そこで自殺用のロープを買った。プレゼントを受け取っていたらと悔やむ少女。少女は誕生日が来るたびにそれを思い出す。

少年と少女は大人になっても、背負った重い十字架を降ろすことはできなかった。自殺した少年の父親は「君たちのことを、恨んでもいないし憎んでもいない。ただ許せないだけだ」と。
自殺した少年の思い、残された家族の思い、同級生たちの思い、その事件を追った記者たちの思いが絡み合い、考えさせられる小説だった。

「親友」と呼ばれた少年は、結婚し子供ができて、3年生になった息子の行動を見て、なぜ自殺した少年から親友と呼ばれたのかの意味を悟った。これには泣けた…。



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