上野日記

自分が主人公の小さな物語

重松清の『ブランケット・キャッツ』を読んだ

重松清の『ブランケット・キャッツ』を読んだ。2008年に朝日新聞社より刊行された短編集で、「花粉症のブランケット・キャット」、「助手席に座るブランケット・キャット」、「尻尾のないブランケット・キャット」、「身代わりのブランケット・キャット」、「嫌われ者のブランケット・キャット」、「旅に出たブランケット・キャット」、「我が家の夢のブランケット・キャット」の7編が収録されている。

2017年6月23日よりNHK総合「ドラマ10」にてドラマ(出演・西島秀俊吉瀬美智子島崎遥香)が放送されるのを知り、早速図書館で借りてきた。

以下の概要は裏表紙より:

馴染んだ毛布とともに、2泊3日だけ我が家に「ブランケット・キャット」がやって来る。リストラされた父親が家族のために借りたロシアンブルー、子どものできない夫婦が迎えた三毛、いじめに直面した息子が選んだマンクス、老人ホームに入るおばあちゃんのために探したアメリカンショートヘア――。「明日」が揺らいだ人たちに、猫が贈った温もりと小さな光を描く7編。

花粉症のブランケット・キャット不妊治療を始めた夫婦、夫に原因があり子供ができる可能性がゼロに近いことを知る。割り切った、そして少しぎくしゃくした夫婦生活が始まるが、もしもペットがいれば夫婦生活は変わるのではないかと考え、お試し感覚でレンタル猫を借りてくる。その猫が大暴れしたことにより、二人の心の距離が少しずつ近くなっていく。

助手席に座るブランケット・キャット:末期癌と知った50過ぎの女性、長年勤めた会社の金を横領し逃走する。何も悪いことはしていないのに、どうしてこうも「ふしあわせ」なのか…。高級なレンタカーの助手席にレンタルした猫を座らせ、死に場所を探す。懐かしい思い出のような幻想が体験する。猫の魔法なのか…。

尻尾のないブランケット・キャット:いじめをしている中学生。父親との間にこだわりがある。いじめをしていた少年が自殺未遂をし、学校に呼び出された父親は激怒する。猫が家で大暴れ、父親はカンカンになる。少年は「自分が最低だった」と、父親は「お前は最低ではない」。少しだけ心が通じ合えた。

身代わりのブランケット・キャット認知症になった高齢の母親を施設に入れる前に自宅に泊めることにした。母親が家に来るたびに可愛がっていた猫は数年前に死んだので、似たような猫を借りてくることにした。娘の結婚を前提とした彼氏も家に招待しようとしたが、娘は彼と人生観は価値観の違いで別れようか悩んでいるところだった。祖母の言葉に涙する。「喧嘩すればいいんですよお、若い人は。喧嘩しないとだめですよお、夫婦になるんだったら、ほんとうにねえ」。そして彼に「喧嘩しようよ」と電話する。「どっちが正しくて、どっちが間違っているじゃなくて、たくさん、喧嘩しようよ、これから」「これからって…いつから?」「とりあえず、今夜」。なんかほんわかとなった。

嫌われ者のブランケット・キャット:アパートはペット禁止。大家の頑固じいさんは、レンタル猫を使って、アパートを巡回し違反者がいないか見回りをする。部屋の中に猫がいるとレンタル猫が反応する。大家は何故猫(ペット)が嫌いなのか。それには悲しいでき事があった。

旅に出たブランケット・キャット:なんと猫目線で物語が進む。離婚して出ていった母親に会うために、家出した少年と幼い妹が乗り込んだトラックに、借りてから逃げてきたレンタル猫が飛び乗る。そして、まるで人間の気持ちがわかるような行動を猫が取り、奇蹟的な展開となる。そんな馬鹿なと思いつつ、面白かった。

我が家の夢のブランケット・キャット:リストラされた父親、家のローンが払えなくなり手放すことになる。娘と息子は転校することになり、特に中学の娘は猛反発し父親と話もしない。子供たちの昔からの念願だった猫を最後の思い出として、借りてくることにしたが、妻からも「誰のための最後の思い出なのか」と罵られる。娘が猫のブランケットを捨てたため、猫は大暴れする。娘と一緒にそのブランケットを探しに出かけ、久しぶりに会話する。家族との思い出のために、十年後二十年後笑ってアルバムを見られるように、もうひと踏ん張り頑張ると決意する。


色々なことで少し躓いてしまった人々が、猫の力で前に進もうと決意する。心温まる話だった。


そして、「文庫版のためのあとがき」も面白かった。「桃太郎」や「かぐや姫」の省略された部分「それから月日は流れ、桃太郎(かぐや姫)はすくすくと育っていきました」は、あっさり処理されていると。おじいさんおばあさんは、いろんな苦労をして子育てをしたに違いない」、自分はヘンクツなので、おとぎ話の語り手が端折ってしまったところがきになる、と。なるほど、作家って発想も想像力も人並み外れているのだということが実感できた。あたりまえだけど。





© 2002-2024 Shuichi Ueno