福田恆存*1訳のアーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』(The Old Man and the Sea)を読んだ。ヘミングウェイの晩年の小説で世界的なベストセラーになったらしく、1954年のノーベル文学賞を受賞したのにはこの作品によるところが大きいらしい。
ヘミングウェイの名前はもちろん知っていたし、『老人と海』も耳にしたことはあった。手頃な厚さだし、有名な小説なのでとりあえず買ってみた。あらすじは、裏表紙の説明でほとんどこと足りている。巨大なカジキマグロとの戦いが延々と続く。しかもほとんど似たような内容が4日間も……。でも、カジキマグロと必死で戦う老人の描写はたしかに迫力があるし、心理描写もすごいし面白く引き込まれてしまった。
4日間もかけて獲ったカジキマグロはサメに食われてしまう。生きるか死ぬかで捕らえた獲物を、サメから必死になって守ろうとするが、長いくちばし(角?)と尾ヒレしか残らない。老人が得たものはなんだったのだろう……
この訳本の初版は1953(昭和28)年*2だが、その割には漢字が少ないような気がした。簡単な字でもひらがなで表記されているので、ちょっと読みづらかった。訳者の意図だろうか。
ボストンに赴任していた頃、ホエールウオッチングに行ったことがある。いわゆる、「鯨見物」だ。ボストンから数キロ北に走った港町から出航した。町の名前はもう忘れてしまった。船は、「老人」が漕ぐボートみたいに小さな船ではなく、そうかと言ってフェリーみたいに馬鹿でかい船でもない。50人ぐらいが乗れる船だろうか、それで1時間ほど沖に出る。夏場で陸地はあんなに暑かったのに、沖に出ると風が冷たく、屋根のない二階席でブルブルと震えていたのを覚えている。目的地に着いてしばらくすると、あちこちに鯨が見えてきた。ガイドが「こっちに鯨がいるぞ*3」とマイクでアナウンスするとみんながその方向に移動する。すると船がそちらに傾く。「今度はこっちだ」という声に、客みんながまたそちらに移動し船がそちらに傾く。間近で見る鯨はとても大きかった。……というちょっとした「海」の想い出でした。