上野日記

自分が主人公の小さな物語

奥田英朗の『オリンピックの身代金』を読んだ

奥田英朗の『オリンピックの身代金』を読んだ。2008年に角川書店より刊行された長編サスペンス小説だ。2009年には第43回吉川英治文学賞を受賞し、2013/11/30-12/1にはテレビ朝日でドラマが放送された。ドラマを観る前にと思い図書館で借りてきた。


以下Amazonより:

昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向け、世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられた!しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、一人の東大生の存在が捜査線上に浮かぶ…。「昭和」が最も熱を帯びていた時代を、圧倒的スケールと緻密な描写で描ききる、エンタテインメント巨編。

1964年の東京オリンピック開催を妨害するための連続爆破事件。そして犯人は金を要求する。小説は4人の視点で交互に展開する。犯人はなぜそのような犯行を決意したのかなど、事件の約1ヶ月前から話が進む。警視庁の敏腕刑事はその犯人を追いつめていく。犯人と東大同級生でテレビ局勤務社員はオリンピック警備の最高責任者で警察幹部。自宅が爆破されたのにその情報がまったく知らされず不信に思う。犯人のアパート近くの本屋の娘。犯人に対するあこがれもあり、うまく利用されてしまう。
秋田の貧しい農村で育った犯人は、東京の豊かさと田舎の貧しさのあまりの格差、オリンピックのために駆り出された労働者たちの低賃金での厳しい労働を実際に体験し、オリンピック開催で浮かれている世間に怒りを覚え、犯行を計画する。
小説なのでフィクションだけど…。オリンピック準備への状況やメディアでは伝えられなかった厳しい裏の社会や、警察内部(刑事部と公安部)の対立や縦割を絡め、オリンピックに沸き立つ世間の状況を細かく書かれている。犯人と警察の攻防は引き込まれながら読んだ。なかなか面白かった。

さてと、ドラマを観るかな。


12/10追記:
録画したドラマを観た。内容は原作とは大筋は合っているが、微妙なところに差異があり違和感を覚えた。そして、小説に描かれている犯人と刑事たちの攻防や緊迫感がドラマには欠けていたような気がした。時代背景を考慮して今では使用しづらくなった「言葉」を多用していた原作だったが、テレビしかも地上波だったので「放送禁止用語」や「配慮すべき言葉」が一切使われてなかったのは仕方ないのかな。当然といえば当然だけど…。ま、ドラマもそれなりには面白かった。

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