上野日記

自分が主人公の小さな物語

西村賢太の『苦役列車』を読んだ

西村賢太の『苦役列車』を読んだ。2011年に新潮社より刊行された小説で、「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も収録されている。「苦役列車」は2010年に第144回芥川龍之介賞を受賞した。「風俗に行こうかと思っていた」でマスコミが騒いだのが印象に残っていた。

前々から読みたかった本だったが、図書館では待ち行列が長くなかなか順番が回ってこない。ふと立ち寄った駅東口の古本屋に400円で売られているのを見つけた。ちょっと高いかなと思い駅の西口の古本屋を覗くと200円だったので、即買ってきた。

苦役列車:19歳の青年が主人公。中学を卒業し、親からむしり取った金で一人暮らしをする。港湾の日雇い人足で日銭を稼ぐが毎日は働かない。アパートの家賃は滞納を繰り返し、何度も転々とする。そんなある日アルバイトの専門学生と仲良くなるが、自分の小さなプライドのために仲たがいをする。将来の夢もなく計画性もない自堕落な生活送る青年の悶々とした苦悩が描かれている。

落ちぶれて袖に涙のふりかかる:「苦役列車」の主人公は40歳を過ぎ、小説家になっていた。ぎっくり腰になり悶え苦しんでいる。排尿・排便、歩くこともままならないありさまだ。そんな激痛に悶える中、いろんなことを思い返す。川端康成賞の最終候補になり、どうしても受賞したいこと。編集者とのこと。新人賞を取った時の験担ぎ。などなど、といろんなエピソードが面白おかしく綴られている。


漢字の使い方(あまり見かけない漢字も含む)もあるだろうか、最初は読みにくい文章だなと思いつつ読み進めた。ところが途中から引き込まれ面白く読ませてもらった。「私小説」と言うことで、作者の顔が目に浮かび「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」でのぎっくり腰で悶えるシーンや愚痴をこぼすシーンには思わず笑ってしまった。他の作品も読んでみようかな。




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