上野日記

自分が主人公の小さな物語

恩田陸の『夜のピクニック』を読んだ

恩田陸の『夜のピクニック』を読んだ。2004年に新潮社から刊行され、第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞を受賞した長編小説だ。2006年には多部未華子石田卓也出演による映画も公開されている。

高校3年の少年と少女が主人公で、学校の伝統行事「歩行祭」中の少年と少女のそれぞれの視点からの思いが交互に描かれている。「歩行祭」とは80Kmを一昼夜かけて歩くだけの行事で、前半はクラス毎にかたまって後半は仲の良い友達同士で歩く(もしくは上位の順位を狙って、時間内に到着するために走る)。「著者の母校である茨城県立水戸第一高等学校の名物行事『歩く会』をモデルにしている」らしい。そういえばテレビで紹介されているのを観たことがあるなと思いつつ読んでいた。

少女と少年は異母きょうだいで、そのことは周りにもそして親友にも秘密にしている。というより話せないでいる。高3で初めて同じクラスになったが、お互い一言も話をしてない。少女は少年の父親の浮気で生まれた子で、父親は高校入学前に癌で亡くなった。その葬式で初めて少女は少年に逢うが少年が恐ろしい顔でにらんでいた。少年の母親は完全に母娘を無視している。少女はそこのことに対して罪の意識をもっている。少女に罪はない少年も理解しているのだが、自分の母親のことを思うとその存在が許せなかった。そのため少女は少年に嫌われていると思っている。お互いに意識しあい不自然な様子をクラスメイトは二人が付き合っているのではと誤解する。少女はこの歩行祭で少年に話しかけられるかどうか賭けをする。そしてその賭けに勝ったら……。

高校生活の一片が切り取られたような小説だ。友達のこと、母親のこと、死んだ父親のこと、そして恋愛のこと、兄弟のこと、進路について…。悩むことも多かったが楽しいことも多かった青春時代と言った感じだ。ただ歩くだけの行事がその人の一生の想い出になっていくのだろう。過去ではなく未来を感じさせる話だった。


そして、6/5に日本映画専門チャンネルで放送された映画版を観た。「撮影場所には著者の母校であり、この作品の舞台となっている茨城県立水戸第一高等学校が実際に使われた」らしい。小説を読んで泣きはしなかったが、映画では涙してしまった。でも、多少省略されているので原作は読んだほうが良いな。


高校生活はやっぱり3年が一番楽しかったかもしれない。運動会の出し物でゼロ戦(たしか、「紫電二一型(紫電改)」だったと思う)や文化祭準備で学校に無断で徹夜したこととか、休み時間教室の後ろで雑巾丸めて夢中でサッカー遊びしたこととか、友達んちで酒を呑んだこととか……。「もっと、ちゃんと高校生やっとくんだったな。損した。青春しとけばよかった」という少年の台詞がある。「ちゃんと青春していた高校生なんて、どのくらいいるのかな」と少し冷めた少女の言葉には笑ったが、なんでもないことやふとしたことで思い出すことが青春なのかもしれないし、そしてみんな後悔するものなのかもしれない。





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