上野日記

自分が主人公の小さな物語

「根岸英一博士 公開講演会」に行ってきた

ノーベル化学賞を受賞される根岸栄一博士の公開講演会を聞きに行ってきた。講演タイトルは「Palladium-Catalyzed Cross Coupling Reaction that Has Revolutionalized Organic Syntheses(有機合成に革新をもたらしたパラジウム触媒クロスカップリング反応)」だ。

写真一覧は以下をクリック(Picasaにリンク)。東大構内の銀杏の黄色がとてもきれいだった。

根岸英一博士講演会

濱田純一東京大学総長の挨拶

根岸先生へのお礼とお祝いの弁と根岸先生の経歴の紹介。今回の講演で、ノーベル賞は夢ではないと学生に思ってもらいたい。根岸先生にはアドバイスをいただきたい。総長顧問にもなっていただきたい。

根岸栄一博士の講演内容

東京大学には、50数年前に5年間お世話になった。1年留年したので5年だ(笑)。

ノーベル賞を受賞する確率はどれくらいかという質問を先日問われた。そこで簡単だがちょっと計算してみた。ノーベル賞が始まってからの人口は100億人ぐらい、ノーベル賞を受賞したひとは700〜800人ぐらい。計算を簡単にするために1000人とすると、1000万人に一人の割合でノーベル賞を受賞したことになる。宝くじに当たるのと同じくらいかもしれない。1000万は10の7乗だ。つまり、10人のセレクションを7回通過するとノーベル賞を取れるとも言える。1000万人は途方もない数に思えるが、10人の競争に7回勝つと思えばできそうな気がする。今ここにいる若い人*1は10の3乗ぐらいの所にいるかもしれない。残りあと10の4乗がんばればノーベル賞が見えてくる。ステップを踏みながら確率の高いところに自分を導いていく。私はそうしてきた。

それは1960年の渡米だったかもしれない。会社の留学の競争倍率は50倍から100倍だったかも。お金がなかったので会社からの全額給付の留学をさせてもらった。ブラウン先生の教え子は400人、北大の鈴木先生と二人がノーベル賞を取ったから、その時は200分の1の確率にまできていたのかもしれない。

How to Synthesize Any Organic Compounds: High Yields, Efficently, Selectively, Economically, Safely
YES(ES)!->"Green Chemistry"と考える。
放射性物質、毒性の強いもの(ヒ素、水銀、カドミウム等)をのぞいた元素を有機カップリングに使えると考えた。
LEGO Game Approach to C-C Bond Formation via PD-Catalyzed Cross-Coupling Reactions
Intermolecular Interaction in Donor-Acceptor Complexes
Why d-Block Transition Metals ?
Interactions between Two Coordinatively Unsaturated Metal Species
Efficient an Selective Synthesis of Mycolactone A Side Chain LEGO Game Approach. Carbonyl Olefination-Pd-Catalyzed Alkenylation Synergy
Alkyne ZMA-Pd-Catalyzed Alkyl-Alkenyl Coupling: LEGO Game Route to CoQ10

クロスカップリングの話は、難し過ぎた。ノーベル賞が決まった時、テレビ番組でクロスカップリングの話を分かりやすく説明していたので何となくわかっているつもりだったが、その1000(10の3乗)倍ぐらい難しい話だった。

講演終了後の質疑応答
  • もう一度人生をやり直すとしたらどうするか?
    すばらしい人生だった。発見が見つかったときは体がふるえていた。まねしていたらだめ。好きなことで飯が食えるというキャリアはすばらしいと思う。もう一回やりたい。エネルギー問題、食糧問題、まだ残っていると思うので、自分だけでできるとは思っていない。もう一度そのチャンスがあったらやりたい。
  • 今までの人生の中で一番の「決断」はなんだったか?
    先ほど話したように、7つの階段というか門をくぐってきた(10の7乗の話)。有名大学に入学し、ペンシルバニアに行きブラウン先生に選んでいただいた。自分の研鑽も含めて。ただ、強いていえば、アメリカに留学するという決断が一番だったと思う。

【感想】こういう話はもっと若いうちに聞いておきたかった。今の歳だからそう思うのかもしれないし、若かったら若いなりにまた感じ方も違ったかもしれない。


東京大学構内には銀杏の木がいっぱい植えられており、黄葉していてとてもきれいだった。風が吹くと黄色い葉がハラハラと舞い落ちる。そして銀杏並樹に挟まれた道を干上がった川のように黄色く染めていた。そこをいろんな人たちが歩いている。もちろん学生や先生もいただろうが、子ども連れ・乳母車を押しているお母さんや観光らしきおばさんたち、散歩のおじいさんなど一般の人たちもたくさん見かけた。東大は周りの住民の生活の一部になっているのかもしれない。


20数年前、あるシステム(メインフレームUnix)を理学部に納めていた頃、週に2,3回東大に出張していた。トラブル続きで徹夜もあったり、色々と大変だったのを思い出した。その時、安田講堂を見て「これがあのテレビで見た安田講堂か」と思ったものだ。今回初めて中に入ることができた。歴史を感じさせるような造りで天井が高く、それが日本の最高学府の威厳を漂わせているような感じがし、しばらく上を眺めていた。ただ「椅子が壊れやすいので丁寧に扱ってください」というアナウンスには笑ってしまった。


時間は遡るが。本郷三丁目駅に着いたのは昼前だったので、どこかで飯でも食おうと東大に向かって歩いていた。赤門を見つけ写真をパチリ。周りを見渡すと「赤門そば」という看板のそば屋が斜向かいにあるのを見つけた。中に入ると私の両親よりも年上の老夫婦がその店を切り盛りしている。昼前なので客はひとりだけだった。何にするか悩んだすえ「揚げ餅おろしうどん」にした。そば屋なのに。「うどんでいいですか?」とお茶を持ってきたお婆さんに聞きなおされてしまった。そば屋だからか。出てきたうどんのつゆをみて、あっ失敗した、と心の中でつぶやく。つゆが濃い関東風だったのだ。こんなに濃いつゆは久しぶりだった。ここは東京だから当たり前なのだが、油断していた自分が悪い。つゆと麺はちょっと自分の好みではなかったが、揚げ餅はおいしかった。ごま油で揚げたのだろう、とても香ばしかった。

*1:東大生に対する言葉かもしれない

© 2002-2024 Shuichi Ueno