上野日記

自分が主人公の小さな物語

重松清の『卒業』を読んだ

重松清の『卒業』を読んだ。2004年に新潮社より刊行された短編小説集で、「まゆみのマーチ」、「あおげば尊し」、「卒業」、「追伸」の4編が収録されている。

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以下の概要は裏表紙より:

「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが――。悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。著者の新たなる原点。

まゆみのマーチ:母親が危篤で病院へ駆けつける。中学の息子は不登校になり家から出ることができない。母親が若い頃、幼かった妹へ作った歌、ずっと母と妹ふたりの秘密の歌だった。それを知った時、自分の息子への今までの対応を切り替えることができた。少しずつ…。

あおげば尊し:高校の校長までした父親はとても生徒たちに厳しく慕われていなかった。余命いくばくもないそんな父親へ見舞いに来る生徒は一人もいなかった。そんな父親の背中を見て育った息子は小学校の教師をしている。「死」に興味を持った児童の対応に苦慮する。

卒業:14年前に自殺した親友の娘が突然訪ねてきた。生まれる前だったので父親の記憶が全くない。別々の就職先になり少し疎遠になってしまった親友。彼が身重の妻を残し自殺したのかわからない。訪ねてきた彼の娘に友達との思い出を教えていく。

追伸:幼い頃癌で亡くなった母。その母が息子へあてた日記を父親は一度しか見せてくれなかった。数年後に父は再婚し、その継母を「お母ちゃん」とは呼べなかった。「日記が読みたかったら私のことを『お母ちゃん』と呼べ」と迫るが、頑なに拒否する。彼が大人になっても、そのわだかまりは消えなかった。


重松作品に多い、40代の主人公、両親との死別、家庭内も問題、過去の過ちへの後悔などが複雑に絡み合う作品だ。心が重たくなり、考えさせられる小説だった。

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