上野日記

自分が主人公の小さな物語

吉田修一の『春、バーニーズで』を読んだ

吉田修一の『春、バーニーズで』を読んだ。2004年に文藝春秋より刊行された、連作短編集だ。「春、バーニーズで」「パパが電車をおりるころ」「夫婦の悪戯」「パーキングエリア」「楽園」が収録されている。2006年にWOWOW西島秀俊寺島しのぶ主演でドラマ化されたらしい。

デビュー作「最後の息子」(オカマと同居するヒモの青年が主人公で、ビデオを撮りながら日々の出来事や悩みが綴られている。らしいが、思い出せない…^^;)の続編で、主人公の10年後の日常が描かれている。
主人公は、1歳半の子持ちの女性と結婚し彼女の母親と同居して、既に2年が過ぎていた。30歳を過ぎ、既に「父親らしさ」の自覚さえあり、後輩からも羨ましがられる夫婦となっていた。ある日家族で服を買いに行った店「バーニーズ」で10年前に同棲していたオカマとばったり会う。
自分が選ばなかった人生はどうだったろうかとか、置き忘れた時間があるのではないかと考えたり、その時間を取り戻すことができるかもしれないと高校の修学旅行で置き忘れた腕時計を探しに行ったりとか、幸せな人生を送っているようでも何故か悩む主人公。そんな感情や情景が巧みな文章で語られている。

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