上野日記

自分が主人公の小さな物語

東野圭吾の『十字屋敷のピエロ』を読んだ

東野圭吾の『十字屋敷のピエロ』を読んだ。1989年に講談社より刊行された本格長編推理小説だ。1992年に文庫本が刊行された。本書は古本屋で購入したのだが、2008年の第52刷となっている。

十字屋敷で起こった自殺そして連続殺人事件、その目撃者はピエロの人形だった。犯行が内部の人間だったら心情的にいってこいつが犯人じゃないのと思って読んでいたら的中したが、その動機と謎の共犯者の意図は予想とまったく違っていて、各人の思いは複雑に絡んでいたことに驚かされた。そして意外な結末…。なかなか面白かった。
ピエロの人形にあたかも命があるのかのように事件の状況を説明させるのってアリなのかと思いながら読んだが、最後の解説を読んで「なるほど」と思ってしまった。

連続殺人事件の中心にピエロの人形を置き、登場人物とは違った視点から事件を語らせている。探偵では事件を目撃できないし、渦中の人物に同じ役割を振れば、必ずどこかでアンフェアな描写を余儀無くされる。最初はただの趣向としか思えない。だが、読み進めるにつれてピエロの存在が事件そのものの解明に大きな意味を持っていることに気づかされる。そして大団円に至って、読者はピエロの目撃した状況にすべてのヒントが隠されていたことを知る。ピエロは目撃者であり、小さな探偵であり、しかも嘘をつかずに読者にミスリードを誘う小道具の役割も担わされている。その上、存在そのものが事件の不気味さを煽る。

確かにそんな感じだった。

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