上野日記

自分が主人公の小さな物語

村上春樹の『ねむり』を読んだ

村上春樹の『ねむり』を読んだ。2010年に新潮社より刊行された短編小説だ。最初は「文藝界」1989年11月号に掲載され、1990年の短編集『TVピープル』に「眠り」として収録されたものを全面的に改稿、文章的に「ヴァージョンアップ」し、オリジナル版と区別するためにタイトルを「眠り」から「ねむり」に変更したらしい(あとがきより)。

あとがきを入れて93ページ、上質で厚い紙を使用しているが本自体は薄い。それなのに定価1800円(税別)にはちょっと驚いた。
主人公はある日突然眠れなくなった主婦だ。17日も眠っていない。歯科医の夫と子供がいて幸せそうだが、不眠の理由がわからない。毎日同じような生活パターンに不満を抱えているのか。子どもの頃から読書が好きだったが結婚してから読まなくなったが夜中に昔読んだ小説を3回も読み返し、結婚して飲まなくなった酒を飲み、同じく食べなくなったチョコレートを食べるようになる。自分が痩せたことも気づかれない。眠りの延長は「死」なのか「生」なのか、「死」と「眠り」は異質のもので「覚醒した暗闇」なのか。人は、そんなことを考えつづけるのだろう……か。

本棚を探したら文庫本『TVピープル』(1993年)が出てきた。だから正確には“読み返した”になるのだが、内容は全く覚えていなかった。

ドイツ語版が先に出版され、その見事な装丁を村上春樹も非常に気に入ったらしい。村上春樹の希望があったのだろう、この日本語版が作られたらしい。ドイツのイラストレータであるカット・メンシックのイラストが何ページも挿入されている。

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