上野日記

自分が主人公の小さな物語

池井戸潤の『鉄の骨』を読んだ

池井戸潤の『鉄の骨』を読んだ。2009年に講談社から刊行され、第142回直木賞候補となり、2010年には第31回吉川英治文学新人賞を『天地明察』と同時に受賞した長編小説だ。また、2010年にはNHK小池徹平主演によるドラマが放送された。今年3月にはその再放送があったらしいがどちらも見損ねてしまった。

池井戸潤の小説を読むのは『下町ロケット』、『果つる底なき』に続きこれで3作品目だが、どれも面白く読んで正解だった。
大学の建築学科を卒業し、中堅ゼネコンに入社した4年目の青年が主人公だ。夢のある仕事がしたいと希望を膨らませ、そして現場では正義感あふれる青年だった。作業現場では下請け作業者の指示や監視をする部署で働いていたが、ある日突然に業務課への異動になった。その課は「談合課」と揶揄される課長一人担当二人の小さな部署だった。談合は犯罪だと知りつつも「必用悪」と言い含められ次第にその一端を担うことになる。そしてゼネコン業界の天皇と呼ばれる人との連絡役を命ぜられる。ゼネコン業界はどこも資金繰りが悪く、赤字と分かった仕事は落札したくない。そんな中、地下鉄工事の公共事業が公募され各社が名乗りを上げ「調整」が始まる。裏には政治家と官僚の影があり、東京地検特捜部も動き出している。はたして地下鉄工事を落札するのはどの社か……。また、業務課に異動になってから銀行に勤める彼女と仲がギクシャクし出し、プロポーズも断られる。田舎の母親はくも膜下出血で倒れ、一命は取り留めたが今度は心筋症を発病し手術をすることになる、などと私生活でも悩みの種は尽きない。


サラリーマンとしては嫌なことも業務命令とあれば従わなければならないときがある。断ることもできるが、その時はそこに自分の居場所がなくなる。正しいことがいつも正しいとは限らないと現場監督に諭される場面があるが、社会の汚い裏側を知った彼は貴重な経験をし、そして成長したのかもしれない。自分の信念は口に出して相手に伝えなければ、何事も始まらないと感じた。

読んでいて、最近マスコミをにぎわしている傲慢政治家の不正な金の流れの裁判を思い出してしまった。

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