上野日記

自分が主人公の小さな物語

「売れなかった写真集」…でも

今朝の朝日新聞『ひととき』に横浜市の71歳の女性が「売れなかった写真集」と題した文章を投稿していた。内容を要約すると以下のような感じだ。

70歳になった記念に若いころから趣味で撮っていた雲の写真集を作り自費出版した。友人に贈ると喜ばれたが、さっぱり売れず落ち込む。ふと思いフリーマーケットへ出展したが客は素通りし見向きもされない。カメラを持った人には「自分で撮るからね」と言われ納得する。結局1冊も売れなかった。隣で服やバッグを売っていた母娘は雲が好きだと話がはずみ、別れ際に2冊プレゼントした。思いがけない出会いに救われた。

これを読んで、横浜市戸塚区の図書館のロビーで写真展が時々開かれているのを思い出した。そこには、(たぶん正式な呼び名があると思うが)A4サイズ程度の大きさの写真が20枚ほど展示されている。いつもそれを横目で見ながら図書館に入る。図書館から帰るときも立ち止まることはない。「素人が撮った風景写真を見てもねぇ」という思いがあるからだ。まぁこのブログもそうだろう。有名人のブログだったら皆挙って読むだろうが、どこのだれかもわからない人の駄文は読む気にもならないだろう。

先日(9/24)、朝日新聞天声人語オフコースの「秋の気配」が引用された。『▼激しい雨風は列島に秋を置いていった。しつこい残暑が去り、いわし雲の空は水彩の妙。〈夕焼けてサーファー赤き波に乗る〉田島もり。そんな夏の残像は、朝夕の涼にあせてゆく▼…【 略】…▼<たそがれは風を止めて/ちぎれた雲はまた/ひとつになる>。オフコースの佳曲「秋の気配」で、小田和正さんは男女の別離を生地横浜の風景に重ねた。淡い喪失感は、秋が持つ別の味だ。<大いなる河のように/時は流れ/戻るすべもない>』

いわし雲やちぎれた雲がひとつになる様子はその人の心の中に残るはずである。『ひととき』に投稿した人の写真一枚一枚もその人にとっても大切な思い出に違いない。それと同じようにこのブログも私にとっては大切な記録となってきている。ニュートリノが光より速い物質だと分かりタイムマシンも夢ではないと騒がれているが、時の流れを戻るすべがない以上その瞬間を大切に記録していきたい。

この写真は今日の夕方撮った写真で、西に沈む夕陽で光る雲とそれを突っ切る一筋の飛行機雲だ。このままいけば赤く染まるのではないかと期待したが、何事もなかったかのように静かに暮れていった。

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