上野日記

自分が主人公の小さな物語

重松清の『ナイフ』を読んだ

重松清の『ナイフ』を読んだ。1997年に新潮社より刊行され、1998年に第14回坪田譲治文学賞を受賞した短編小説である。他に「ワニとハブとひょうたん池で」、「キャッチボール日和」、「エビスくん」、「ビタースィート・ホーム」が収録されている。

学校のいじめやモンスターペアレントについて描かれている。ちょっと考えさせられる内容だ。

ワニとハブとひょうたん池で:突然ハブられた中学2年の少女。ハブとは村八分のハチブを略した言葉だ。ある日突然クラス全員から無視され、ハブは塾にも広がる。親には恥ずかしくて相談できない。ひょうたん池に迷い込んだワニに食べられる事を考え始める。でも彼女は……。

ナイフ:クラスで一番背が低い中学3年の少年がいじめにあう。親には悪ぶって乱暴な口をきく。父親はそれを頼もしいと思う、自分とは違うんだと。父親も背が低く同じようにいじめにあっていた。大人になって今でもそれが後を引いて、背が低いというだけで引け目を覚え強く出ることができない。ある日露店で小指ほどの長さの小さなナイフを買う。のこぎりや缶切りが付いたサバイバルナイフだ。それを持っただけで強くなったような気がしたが、子供を守ることはできなかった。でも少年はそんな父親から勇気を貰う。

キャッチボール日和:虚弱体質の中学3年の少年は毎日いじめの標的にされ、とうとう2学期から登校拒否になってしまった。同じクラスで幼なじみの少女も助けることができない。高校球児だった父親はそんな息子に根性と気合が足りないと叱咤する。でも無理だった。

エビスくん:ちょっと人の良い小学6年の少年。2学期に転校してきた体がでかく腕力も強い少年<エビスくん>から何故かいじめを受けるようになる。クラスの男子はお前がはむかえば手伝う、何故一発も殴り返そうとしない。女子からは先生に相談しようといわれるが承知しない。難病を持つ妹にはエビスくんは親友だと嘘をつくと、恵比寿さんは神様だから病気を治してくれるかも、と会いたいとせがむ。でもエビスくんに見舞いに来てと言い出すことができない。でも……。

ビタースィート・ホーム:元高校の国語教師だった女性、二人目の子が授かり教師を辞め専業主婦になる。小学4年の娘の担任(若い女性教師)の些細な指摘が気に入らないと抗議をする。女性は教師を辞めたことを後悔しているのか、夫は辞めさせたことを後悔しているのか。女性は、私はあんな教師よりはもっと良い先生になれると。意外な結末には驚いた。


私が中学の頃もいじめがあったがこれほど陰湿ではないなぁと思いながら読んだし、何故親や先生に相談しないのかと小説だと分かっていてもちょっといらついてしまった。

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