上野日記

自分が主人公の小さな物語

小川糸の『食堂かたつむり』を読んだ

小川糸の『食堂かたつむり』を読んだ。2008年にポプラ社より刊行された書き下ろしの小説だ。「第1回ポプラ社小説大賞に応募し、最終選考にも残らなかった作品であるがベストセラーとなり、映画化され2010年2月6日に公開された」そうな。

2/24にケーブルテレビの日本映画専門チャンネルで放送されたので録画したがまだ観ていない。観るのは原作を読んでからと思ったのだが、なぜ録画したのか覚えていない。たぶん、柴咲コウが主演だったからかタイトルが単に面白かったからだったかもしれない。

10年前に母親との確執から家を出て祖母と暮らす主人公の25歳の女性。その祖母も亡くなり、インド人の恋人と暮らすがそのインド人は家財道具一式やタンス預金と共に逃げてしまう。残ったのは祖母の形見のぬか漬けの壺とわずかな金、そしてショックのあまり声が出なくなってしまう。実家に帰り母親からお金を借りて食堂「かたつむり」を開業するが、母親との確執は残ったままだ。一日一組しか客をとらないが、食事をすると願いが叶うと噂になる。女性をサポートしてくれる人やお客との交流、娘の母親への思い、母親の娘への思いと愛情、お客のことを考えて一生懸命に作る料理、そして母親のために作る料理、泣けた。また、意外な展開にちょっと驚いてしまった。

で、映画版を観た。映像だから表現できる強みはあるし、話の筋や設定の多少の違いは仕方ないが、所々が省かれていてちょっと残念だ。女性がなぜこの料理を作ろうとしたのか、どのような思いで作ろうとしたのかは女性の心の声で説明してもよかったのかもしれない。それに、農家の息子と国語の先生のお見合いの件がなかったのは残念だし、なぜ豚を食べたのかそして最後になぜ鳩を食べるのかも語られなかったので、映画だけを観た人にはその真意は理解できないのではないかとちょっと心配になった。やっぱり、原作を読んでおいてよかった。

女性の祖母がドーナツを揚げ女性の帰りを待つ間に眠るように亡くなったという場面で以下のような記述があった。

私は一晩中ドーナツを食べ続けた。生地の中にケシの実を入れ、シナモンと黒砂糖をまぶしたやさしい味を、私は一生忘れないだろう。
 胡麻油でふんわりと揚げた一口サイズのそれを口に入れて頬張るたびに、祖母と過ごした日向ぼっこのような毎日が、ふわふわと泡のように蘇った。

子どもの頃私の祖母はサツマイモの天ぷら(“つきあげ”と呼んでいた)を揚げてくれた。揚げたてのつきあげはホクホクとしてとてもおいしかったのを思い出した。

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