上野日記

自分が主人公の小さな物語

山田太一の『空也上人がいた』を読んだ

山田太一の『空也上人がいた』を読んだ。2011年4月に朝日新聞出版から刊行された山田太一19年ぶりの書き下ろし小説だ。

朝日新聞の広告で本書を知り図書館に登録されてから速攻で予約した。その時の予約数は8(現在66)、約3週間で手元に届いた。久しぶりに新品に近い本を手にし、その感触がちょっと嬉しかった。

ヘルパーの資格を持つ27歳の主人公の青年が特別養護老人ホームで老婆を死なせてしまい、ヘルパーを辞めると言い出した。ケアマネの女性(46歳)が勧める81歳の老人(男性)の在宅介護の仕事を引き受ける。青年の心の傷、女性の思い、老人の恋心が絡み合う。老人は青年を空也上人の木像を見せるために京都に行かせる。その理由は……。

老人が青年に介護を依頼した理由を以下のように話している。ただ、本当の理由も見抜いていたが。

その青年をいたわりたいと思った。ばあさんの死因がどうのとかいうんじゃない。なにより二十代の青年が老婆とはいえ異性の排泄物の始末と尻と性器の汚れを拭きとるのが一日の大きな仕事で、その上食べさせて風呂に入れて寝かせて、認知症ばかりで気持ちの交流はほとんどないというのはすさまじいと思った。そこで働く人たちには本当に頭が下がる。もっとむくわれなければならない。

テレビドラマ(たとえば、草磲剛が主演した『任侠ヘルパー』)ではあまり表現されないような話だ。テレビで「介護は大変だ」という話や思い余って殺してしまうというニュースをよく耳にする。介護期間が長ければ長いほど介護する側の心労が多くなるのだろう。


本書を読んでいて、あぁー山田太一だという感じが蘇ってきた。会話の中で「はい」が連続するところとか。山田氏は今年77歳、まだまだその筆は健在だ。テレビドラマ化されないかなぁ……。




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