上野日記

自分が主人公の小さな物語

矢作俊彦の『ららら科學の子』を読んだ

矢作俊彦の『ららら科學の子』を読んだ。2003年に文藝春秋より刊行され、2004年に第17回三島由紀夫賞を受賞した長編小説だ。

1968年頃学生運動の最中殺人未遂に問われた主人公<彼>は中国に密航する。文化大革命のため、上海から何日もかけて辿り着くような片田舎に下放され、そこで農業をして暮らした。電気もしばらくなく、テレビが村に一台来たのはかなり後のことだ。そして30年ぶりに密航船で日本に帰ってきた<彼>は50歳になっており、日本の変わり様に浦島太郎状態となり戸惑う。
本書の題名は鉄腕アトムを指している。学生の頃何のために戦っていたのか、未来の夢はなんだったのだろうか。<彼>は、鉄腕アトムの最終回の特攻隊のような自己犠牲よりも、アトムがロボット法(ロボットは国外に出てはならない)を犯してまでも悪漢に捕らわれ強制労働を強いられている少女を救うために海を越えたことが本来の姿ではないかと考えている。まだ<彼>はやるべきことがあると決心する。

<彼>は30年を無駄にしたのだろうか、それともこの次のステップとなる準備期間と考えたのだろうか。<彼>の新たな決心はやり遂げることができるだろうか。


そういえば、高校を卒業し大学に通うために故郷を後にしてからもう30年が過ぎた。20代までは頻繁に帰省していたが、最近は同窓会のような用事がない限り帰らなくなってしまった。最寄駅からタクシーで帰る車中であたりを見渡すと田圃の風景や竜峰山の山並みは変わってないように思われるが、よく見るとかなり様変わりしている。私自身も50のおじさんになってしまった。はたして未来へのステップを見つけ出せるだろうか。

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