上野日記

自分が主人公の小さな物語

不思議な電子音

ふと気付くとどこか遠くから「ピッ」という電子音が聞こえてくる。目覚まし時計のような連続音ではない。……「ピッ」。30秒か1分間隔で1音「ピッ」と規則正しくなっている。……「ピッ」。

うるさくはない。小さな音だ。……「ピッ」。ま、いいか。……「ピッ」。

でも、やっぱり、気になる。どこから聞こえるのだろうか。……「ピッ」。

キッチンに行ってみた。しばらくじっとしていると……「ピッ」。違う、トイレか。

トイレに行ってみた。息を殺して待つ……「ピッ」。違う、洗濯機か。

洗濯機の前でしばらく待つ。……「ピッ」。違う、下から聞こえる。

下をみるとタニタの体重計がそこにあった。スイッチが入っている。しばらくすると表示が消え、スイッチがオフになると同時にまたスイッチが入る「ピッ」。体重測定の準備ができると「ピッ」と鳴る。しばらくすると自動的にオフとなり、再びスイッチが入る「ピッ」。なるほど、こいつが犯人だったか。スイッチをオフにしても、またスイッチが入る。強めに叩く蹴るを繰り返すとオフになった。よかった。でも……。
2、3日するとまた同じように「ピッ」と聞こえるようになった。不思議だ。電池切れかと思い、取説を調べたら電池切れの場合「Lo」と表示されるので違うみたいだ。「故障かなと思ったら」のページには該当する症状は記載されていなかった。うーむ。ネットで検索したら同じような人がいた。その人は、タニタに問い合わせたらしく「古い機種で修理はできないので、新しいのを買ってください」という返事だったらしい。うーん、やっぱり故障かなぁ。まぁいいか、どうせ「ろうきん」のポイントで貰ったものだし、と諦めそのままにした。

でもやっぱり気になる。ダメ元で分解してみることにした。ネジで外せる部品は前面のスイッチしかないので、2本のネジで取り付けられているカバーを外してみると小さな基盤が出てきた。

そこには5個の四角い部品とそれぞれの中央に豆粒みたいな黒く丸いスイッチがあった。白い部品は配線用だ。黒く丸いスイッチを押すとケータイのボタンのようにわずかに凹んで元に戻る。カクッとかすかな音がする。そのうちのひとつが凹んだままになっていたのだ。いつも体重測定時に使うスイッチだった。なるほど、スイッチが押された状態になっていたようだ。良く見るとちょっと錆びている。ドライバの柄で軽く叩いたり爪で叩いたりしたら錆びが取れたのだろう、凹んでいたスイッチが元に戻った。めでたし、めでたし。


学生の頃に読んだ五木寛之のエッセイをふと思い出した。冬なのにスズムシかコオロギの鳴き声が押し入れから聞こえる、という話だったように記憶している。犯人は「電話機」で、編集者からの原稿の催促の電話がひっきりなしにかかってくるので電話機を布団にくるんで押し入れて入れていた、というオチだった。

© 2002-2017 Shuichi Ueno