上野日記

自分が主人公の小さな物語

東野圭吾の『パラレルワールド・ラブストーリー』を読んだ

東野圭吾の『パラレルワールド・ラブストーリー』を読んだ。1995年に中央公論社より刊行された長編ミステリーだ。

物語は「現在」と「1年前」の話がパラレルに進んでいくが、主人公の「現在の記憶」と「1年前の記憶」が食い違っており、矛盾したストーリーが展開される。一般的なSFのパラレルワールドだと異次元の別世界にもう一人の自分が存在し、そこに紛れ込んだ主人公が不思議な体験をするといった話が多いが、この小説では時空間は同一の時間軸上に存在し「記憶」という要素がパラレルに存在するといった感じだ。「序章」と「第一章」を読んだ時点で、かすかな混乱を覚え、次第に謎の世界に引き込まれるミステリーだった。


私自身もこの小説と同じような体験を起こしたことがある。解説で新井素子も書いているが、酒を飲んだ翌朝は記憶が曖昧になっており、パラレルワールドから帰還した気分だ。いつからだろうか、酒を飲み過ぎて記憶をなくすようになったのは……。一番驚いたパラレル体験を書いておこう。

その朝はものすごい二日酔いになっていた。「あー飲み過ぎた……」と後悔したほどだ。歯磨きをして顔を洗うと、眉間が痛い。鏡で見ると蒼くなって少し腫れているのがわかる。こんなに蒼くなるほどぶつけているのに、何故そうなっているのかが理解できなかった。一生懸命思い出そうとしたがダメだった。きっと涙が出るほど痛かったに違いない。月曜日に会社で「大丈夫だった?」と友達に聞かれ、「何が?」と逆に問う。「覚えてないの? そこだよ」と眉間を指される。……あぁ、やっぱりなんかやっちゃったんだ! トイレでトイレットペーパーを置く台にぶつけたらしい。トイレットペーパーが三角のピラミッド状に積まれていたので、「ピラミッドにぶつけた」と叫んでいたと教えてくれた。事の顛末を聞いて、ものすごく落ち込んだのを覚えている。後に、このことは「ピラミッド事件」と呼ばれるようになった。

本当は自分が知らないだけで、パラレルワールドを旅していたのかもしれない。

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