上野日記

自分が主人公の小さな物語

乙武洋匡の『五体不満足 完全版』を読んだ

乙武洋匡の『五体不満足 完全版』を読んだ。いつか読みたいと思っていた本だ。

そろそろ別の作家の本を読んでみようかと本屋をウロウロしていたら、この本を見つけた。平積みされていたので、まだ売れ続けているのだろう。本の帯には「累計580万部のベストセラー」と書かれており、一般書籍の部数記録としては2010年現在で日本第3位の記録を持っているらしい(1位『家庭に於ける實際的看護の秘訣』、2位『窓ぎわのトットちゃん』)。『五体不満足』が話題になりベストセラーになったのはもう10年以上前で、その2年半後に「第4部」が加筆されて「完全版」とし文庫化された。子どもにも読めるようにという考慮からだろう、簡単な漢字にも振り仮名がふってあった。『金閣寺』を読んだ後だったので、逆に目障りだった……(^^;。
村上春樹三島由紀夫の小説を読んだ後だろうか、特に『金閣寺』は「非常な美文の集合体のような作品」といわれているように、文章そのものがとてもきれいだった。それと比べると「作文」のように感じてしまう。純文学小説と自叙伝を比べること自体意味のないことだし、ましてやひとのことが言えた義理ではないのだが……。「『楽しかった』の一言では語り尽くせない『楽しさ』があった」って、ちゃんと書けよ、とツッコミを入れそうになった。

ただ、内容はとてもよかった。……んっ? 「よかった」の一言かよ! 特に幼少期から小学校時代のエピソードは泣ける。涙で読めなくなるほどだ。こんなに明るく、積極的な性格に育ったのは、本人の努力もあるのだろうが、両親の教育方針や小学校でいい先生・友達に出会えたからだろう。中学以降は、生徒会役員やら部活動をがんばって色々な苦難を乗り越えたことが書いてある。さらりと書いてあるのでちょっと自慢話っぽく感じたが、色々と苦労や努力があったのだろう。「完全版」に加筆された部分には、『五体不満足』出版後の話が記されている。有名になったが故の苦悩はとても辛かったようだ。


本書には当然だが「車椅子」の話が時々出てくる。雨や雪の日は大変だったらしい。私自身の車椅子体験は2年半前のことである。小脳梗塞で入院した時、突然左足に力が入らず歩けなくなってしまった。発病して4日目、入院した翌日の夜に突然だ。その昼間は歩けていたのに……。トイレに行くにも車椅子を使わなくてはならなくなった。自分で車椅子を操作したのはトイレとの往復ぐらいで、検査やリハビリ室へは看護師が押してくれたが、これを日常病院外で使うとなるととても大変だということが実感できた。このまま歩けなくなるのではと絶望的になったほどだったが、リハビリで徐々に回復し、現在は多少の違和感は残っているもののまともに歩けるようになった。

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