上野日記

自分が主人公の小さな物語

五木寛之の『大河の一滴』を読んだ

五木寛之の『大河の一滴』を読んだ。何年前だろう、かなり話題になっていたので読んでみようかと思っていた一冊だ。裏表紙の説明も今の自分に何となく合いそうな気がする。

いきなり「自殺」の話から始まる不思議な出だしだが、それは「生きている」「生きていく」を宣言するものだった。90年代中ごろにいくつかの雑誌に記載されたり、ラジオで発表されたりした内容がエッセイとして一冊の本になり刊行された。五木さん独特の考えが織り込まれている。〈人はみな大河の一滴である。その流れに身をあずけて海へと注ぐ大河の水の一滴が私たちの命だ。私たちの生は、大河の流れの一滴にしか過ぎない。しかし無数の一滴たちとともに大きな流れをなして、確実に海へとくだっていく〉と。仏教的な観もあるが、決してマイナス思考でもないところがいい。

また、中国の故事〈滄浪*1の水が清らかに澄んだときは 自分の冠のひもを洗えばよい もし滄浪の水が濁ったときは 自分の足を洗えばよい〉が引用され語りが続く。そうだよな、水が濁ったからといってあきらめることもないのだと思った。

この「大河の一滴」は安田成美や渡部篤郎が出演し映画化がされている。なので、最初小説だと思っていた。このエッセイが原案となってストーリ化されたらしいが、どんな内容になっているのだろうか。一度観てみたいものだ。

今私は、その大河のどこを流れているのだろうか……





*1:そうろう:川の名前

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